以下の内容を読まれるのでしたら、こちら(映画の抱えるお約束事)とこちら(映画の抱えるお約束事2 日本ガラパゴス映画)をどうぞ。当ブログの理論についてまとめてあります。
主人公が一般社会の一般的道徳原理を遵守するようなヒーローである場合は、よいとしても、
主人公がありきたりの思考パターンをもっていない異常人の場合は、どうしたらいいのか?
一番いい方法は、そんな以上人を主役にした映画を撮らないことである。
異常人に共感できる一般人なんてほとんどいない。だからそんな映画は基本的に大ヒットするわけが無い。
ただしかし、
それでも異常人を主人公にした映画を撮りたいというならば、
普通人を物語の観察者として赤ポジティブポジションに置き、その人の視点を通して異常人の行動を追うと言う形式にすればいい。
しかし、それだと、製作者が望んだような異常人の主人公と一般観客の間の強い共感は生まれることが無いだろう。
それでは、異常人に強力に共感させるには他にどうしたらいいのだろうか?
これはある意味、一般人を異常人に作り変えようと言う洗脳の形態に近しい。
これは「タクシードライバー」に限定された方法ではないが、
まずより一般的で凡庸な人物を ポジティブポジションに配し、その人によって主人公がどんなであるかを観客に紹介させる。
あなたがあなたの友だちを 誰かに紹介する時、
あなたは友達を連れて、その誰かのところを訪問する。
まず、あなたはその友だちがどんな人物かをその誰かに説明するだろう
その際に、「13歳の女の子が出てくる映画が好きだ」とかそういうことをいきなり言ったりは絶対しないだろう?
普通のありきたりな話で切り出すはずだ。
あなたの友だちの年齢はどうで、学歴はどうで、どんな仕事をしていて、出身地はどこで、等等
その誰かの好みを事前に知っているなら、
友だちの音楽の趣味がどうしたとか、どんな料理が好きとか、星座について語り、話題が弾むようにしむけるもいいだろう。
この場合
最も重要なのは、あなたは、主役ではなく脇役である事を自覚すべきだ。場合によっては、あなたは脇役以下のチョイ役で、あなたがその誰かに対し強烈な自己主張するなんて無意味だ。
あなたが、その誰かに反感を抱かれたなら、あなたはあなたの友だちをその誰かに紹介することさえ出来なくなる。
あなたはなるべくありきたりな風を装ってうまく事務的に 誰かに友だちの基本データを伝える。
そして、それ以降は友だちになるべく直接話させるようにする。
それで十分うまく行きそうなら、あなたは、もう適当な要件をでっち上げて、その場を立ち去ってもかまわない。
それとも、あなたの友だちが油断のならない人物で、放っておけば、
「13歳で娼婦の役を演じるよりも、16歳で無邪気な13歳を演じる事のほうが、少女の心理には大きな影響を与える。事実、ジュディガーランドはオズの魔法使いに出演した時、既にニンフォマニアでジャンキーだった」
というようなことを勝手にペラペラ喋りださないように気をつけるべきかもしれない。
ジョディフォスターの名前を、友だちが口に出しそうになったら、あなたはすぐに機転を利かせて、「マイフェアレイディ」とか「ベンハー」みたいなありきたりなアカデミー賞受賞作の名前を一ダースも挙げて、話の進行方向を一般的に不快感を生じせしめるような方向から退屈な方向へと舵取りすべきだろう。
まあ、何はともあれ、友だちが、その誰かと一定の人間関係を築けたなら、
あなたの役割は終了だ。
友だちが、その誰かに近づいた理由が、職の斡旋を頼むことだろうとベッドルームに盗聴器をしのばせる為だろうと、そんなことは、もうあなたの知ったことじゃない。
以後は、もう、友だちとその誰かの二人の問題なのだ。
「タクシードライバー」を見てしまうと、素で上みたいな文章書いちまうようになる。 「タクシードライバー」が見た人をその気にさせてしまう心理的影響力は本気でマズい。
ただ、タクシードライバーの冒頭の部分で、おこなわれている会社の事務所でのやり取りは、まさにこういうこと。
この紹介者は、その場限りのチョイ役である場合もあり、以後も登場する脇役である場合もある。