『甘い生活』  天使の言葉は分からない

甘い生活』 フェデリコ・フェリーニ監督作 1960年カンヌ・グランプリ受賞

 

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パパラッチという言葉を生んだ名作です。

ゴシップカメラマンとコンビでゴシップ記事書いて暮らしているマルチェロ(実名と役名が同じ)が、堕落した生活を改めてまともな書き物で生計立てようとしていつもと違う場所・浜茶屋で執筆しようとするのですが、

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もともと何も書けない上に、恋人からの電話で痴話げんか。すっかりやる気がなえて、店番している少女に当たり散らします。

 

でも、言い過ぎたと思いなおしてよく彼女を見てみると、相当な美少女。

ペルージャの教会の天使の絵とそっくりだよ」

この手のイタリア人の口の上手さ、見習いたいものです。

 

 

 

かつて高校生の時この映画を見ました。

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短いエピソードがつなげられるオムニバスのような映画ですから、物語りにのめりこめず眠くなったのですが、

このエンディングに対しては、

「救いの路に気付けずに去っていってしまう人たち」、

あのころは、そんな風に解釈して納得していたものです。

 

おっさんになった今になってこの映画を見返すと、この美少女は天使。

 

 女の子にとっては、ローマに住んでいるはずの彼がなぜか朝っぱらに酔っ払って仲間たちと一緒に浜辺にいるって想定外のはずですし、それに一回あってちょっとだけ話しただけの関係ですからこれだけの遠目で彼女にマルチェロだと分かるはずないですよね。

でも、それでも彼女がマルチェロのことを認識できるのは、彼女が天使だから問題ないわけなのですが、

 

「わかんない。何言ってるか全然聞こえない」

それが最後の台詞で、心残りから何度も女の子の方を振り返るのですが、マルチェロに気があるだろう女に手を引かれて画面の右端に消えていきます。

 

 

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それと比べると、観客である私たちはもう少しだけ彼女が何を言おうとしたのかわかるような気がします。

 「ホラ、あたし、あなたがタイプライター打っていた時の。覚えてない?」

いや、もしかすると

「私にあなたがタイプライターの打ち方教えてほしいんだけど、ダメ?」

かもしれません。

 

「聞こえないよ、聞こえない」

 

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「お酒飲みすぎでバカになっちゃったんでしょ」

 

観客の立場からすると、それくらいは分かるので、

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「救いの路に気付けずに去っていってしまう人たち」、というような上から目線の解釈というか感想が出てくるのですが、

 

本当のこと言うと、観客の立場からもこの女の子が珍妙なゼスチャーで何を伝えたかったのかはよくわかりません。

彼女は楽しげで、しなやかで、健康的で、向こう岸はこちら側よりもましな世界らしいことは見ればわかるのですけれども、

それ以上のことは私たちにもわからない、という点でマルチェロと五十歩百歩なわけです。

 

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おそらくこれからも自堕落な生活と痴話げんかがマルチェロたちを待っているはずですが、そんな彼らの後姿を天使は優しく見守ります。

そして、彼らを見送った後、彼女の視線は右寄りから中央のカメラへと動き、フェイドアウト。

 

つまりマルチェロを見送った後は、観客の私たちを見送ってるわけです。