『あまちゃん』と『ちりとてちん』のどちらがいいドラマか?と言いますと、
後だしジャンケンみたいなものじゃないですか、『あまちゃん』ですよ。
『ちりとてちん』の成功した部分を上手にドラマの基調にもっていったのが、『あまちゃん』です。
もともとクドカンの脚本作品は、そんなに泣ける作品ではありません。
『あまちゃん』が三回に二回は泣ける(タケカワヒデユキの言葉)作品なのは、『ちりとてちん』の泣かせる演出法がぶっこまれているから、
『あまちゃん』のメイン監督と二番手プロデューサーが、『ちりとてちん』経由の人たちだから、
なのでしょう。
『ちりとてちん』は、各監督ごとの演出の差異がかなり大きいのですが、
『あまちゃん』では、制作前に統一感を持たせるために、いろいろ方針を詰めていたのでしょう。
『あまちゃん』91話 梶原登城監督
「暦の上ではディセンバーってだから何?絶滅危惧種下町アイドル?知らねえよ」
この台詞の前で、GMTのメンバーの画像を見せようとしたアキの携帯を、ユイはなぎはらいます。
おいおい、そんな乱暴なことしたら、携帯壊れるやろ。と思うんですが、
海女カフェに飾られているGMTのCDを手にして、そのまま床にたたきつけても不思議のないテンションなんですけれども、
そうはせず、元の場所にCDを戻します。戻した場所の位置を丁寧に調節までします。
口ではGMTとアキのことをボロクソいうユイですが、彼女のユビサキはGMTのCDを乱暴に扱うことができないんですね。
「口で言っていることと、やっていることが違ったとして、それはどちらも本当のこと」
後で正宗さんの台詞で出てきますけれども、
言っていることとやっていることのズレ、
このズレ幅のことを私たちはこころと呼んでいるのではないだろうか?
私にはそう思われます。
そして、『あまちゃん』では、その方針が全エピソードを通して貫かれています。
『ちりとてちん』 113話 井上剛監督
「こんな別嬪さんと結婚できるんやったら、うちかてあやかりたいわ」
言葉とズレ幅の大きいカメラワークとBGM、
ここに私たちは、こころを見てしまいます。
113話、ドラマの冒頭から泣かせてくれます。
15分ドラマの冒頭で泣かせられると、15分間ほとんど最後まで泣かさせられることになります。