- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2007/09/27
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ほらさ、初めてのキッスは檸檬の味がするとか言うじゃないの。
レモンの味がする分けなくて、相手の唇と舌の味がするに決まっているんですが、
この『レモンのころ』って、キスシーンの出てこない青春映画なんですけど、
栄倉奈々が石田法司に貸してあげるリップ・クリームの味がレモン風だという設定になっています。
リップ・クリーム貸してあげると当然間接キッスになる訳で、その間接媒体がレモン風味のリップ・クリームなんだから、
初めての間接キッスはレモンの味がした、ということになるのでしょう。
しかし、間接キッスって、そのシーン以外にもあったりするわけでして、
学校内に求めるもののないイケてない女の子の最後の居場所、屋上。そこでくつろいでいると男の子がやってきて、その影の口の部分が彼女の唇に重なる。
こういうの間接キッスって言っていいのかどうか分りませんが、
リップクリームの方よりも、この影とのキッスの方に私はビビッドに反応いたしました。
画面の動きと構図ばかり見ている人間なもんで。
男の子との出会いがそんな風だったんですが、
その男の子に頼まれて自作の曲に歌詞を提供する時の様子。
ろくな歌詞が思い浮かばない女の子が、夢うつつに、稚拙な歌詞を献上しみんなの前でボロカス言われる被害者意識妄想前回な場面。
単なる妄想シーンなんですが、
ここで、彼女は歌詞を書面の形でしか渡していません。
そんで、こちらは実際に歌詞を男の子に渡すシーン。
注意して欲しいのは、紙だけでなく、MDが添えてあるということ。
失恋する前だったら、バンドの音あわせの時に、どんな風に歌詞がメロディーに乗るのか直接指示できたのかもしれませんが、彼への思いを前向きに断ち切ろうと思いを書いた詞ですから、もう彼には会わないと心に決めていたのでしょう。自分で歌ったのを録音したMDが添えてあります。
自分の言葉が大好きな彼の唇や舌の動きで歌になる、と言う時点でもう十分に間接キッス的なんですが、
更にこの場合は自分の歌をまず録音して、それにあわせて彼の口が動くということで、より一層間接キッス的なものを感じます。
この映画、高校三年生の恋愛を扱っているのですが、セックスはおろかキスシーンさえありません。
あえて言うなら柄本息子と栄倉奈々の自転車の二人乗りシーンが性交の象徴的に扱われていることくらい。
マスメディアを通してのクリエイターとその観客のコミュニケーションというのは、間接キッスのようなものなのだろうと感じられなくもないのですね。
送り手と受け手は直接関わっているわけではないのですが、だからといってキスやセックスよりもつまらないか?と言われると一概にそうとも言えないわけでして、
何のひねりもなくて、マンネリ化していて、大して好きでもない相手との心もこもっていないセックスやキスよりも、映画見てる方が楽しいってのは、
私がもう青春してないってことなんでしょう、多分。
いや、冗談めかして言っていると意味取り違えられてしまいそうなんですが、
映画ってのは、画面に心の流れをこと細やかに動線で刻印していくものなのですから、一方通行であっても、ものすごく濃密なコミュニケーションでありうるのです。それを感じ取れるかどうかは、見る人の才覚次第で、
私のこのブログ、その事についてのみ延々と書いてきているわけです。
送り手のほうも一方通行のコミュニケーションと分っていますから、受け手がどのように感じるかを一々シュミレーションしたうえで送り出す内容を煮詰めているのでして、
なんていうんでしょうね、
その、会話とかセックスみたいな即時にフィードバックを行うことの出来るコミュニケーションではなくて、フィードバックは非効率的で時間的に遅れてしまうのだけれど、映画はコミュニケーションには違いないんですね。
それも相手の先を何手も何十手も読んだ、終局まで読み切ったうえでの一方的なコミュニケーションだったりします。
悲しいことに、それって片思いと似てないですか?